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デザイン

心理学から学ぶ、ヒックの法則が示すUXデザインのヒント

公開日

2024.11.18

心理学から学ぶ、ヒックの法則が示すUXデザインのヒントのサムネイル

ウェブサイトで複数の商品カテゴリーを選択しようとしたとき、選択肢が多すぎて迷ってしまった経験はありませんか?このような状況で多くのユーザーが感じる「選択の重み」は、心理学的な理論で説明できます。それが「ヒックの法則」です。ヒックの法則は、選択肢が増えるほどユーザーが決定を下すのに時間がかかることを示しており、UXデザインにおいて、ユーザーが迅速に意思決定できる環境を提供するための重要な指針となっています。この記事では、ヒックの法則の概要とUXデザインにおける活用法を探り、その限界や補完すべきポイントも解説します。

ヒックの法則とは何か

ヒックの法則は、1952年にイギリスの心理学者ウィリアム・エドモンド・ヒックとアメリカの心理学者レイ・ハイマンによって提唱されました。この法則は、選択肢の数が増えるほどユーザーの意思決定にかかる時間が増加することを示しています。ユーザーが多くの選択肢に直面すると、意思決定に伴う認知負荷が増し、選ぶまでの時間が長くなります。
UXデザインでヒックの法則が注目されるのは、選択肢が多すぎることで、ユーザーが最適な決定を下すまでに迷いや不安を感じる状況が生じるためです。デザイナーは、選択肢を制限したり、情報の提示方法を工夫することで、ユーザーの意思決定を支援する必要があります。

UXデザインにおけるヒックの法則の活用

UXデザインにおいて、ヒックの法則を活用することで、ユーザーが直感的かつ効率的に意思決定を行えるように設計することができます。

ナビゲーションと情報提示の簡素化

ウェブサイトやアプリケーションのナビゲーションメニューに選択肢が多すぎると、ユーザーはどこにアクセスすべきか迷ってしまいます。例えば、主要なカテゴリを絞り込み、サブメニューを活用して階層的に整理することで、ユーザーは必要な情報により迅速に到達できます。この戦略は特にECサイトなど、幅広い商品ラインナップを扱うプラットフォームで有効です。

情報の段階的な開示

「プログレッシブ・ディスクロージャー」とは、ユーザーに必要な情報のみをまず提示し、さらに詳細な情報が求められたときに追加の情報を順次表示する方法です。この手法を活用することで、初見のユーザーでも情報の過多に圧倒されず、必要に応じて詳細な情報にアクセスできるため、負担が軽減されます。例えば、設定画面では、基本的な設定項目だけを初めに表示し、「詳細設定」をクリックするとさらに細かいオプションが展開されるようなデザインが考えられます。

フォームデザインの効率化と自動選択

フォームの入力項目が多い場合、ユーザーは入力途中で離脱しがちです。フォームの設計では、必要最低限の情報を求めることで入力の完了率を高めることができます。また、事前に一般的な選択肢を自動的に選んでおき、デフォルト値として設定しておくなどの工夫も効果的です。例えば、国や言語の選択肢が最初から設定されていると、ユーザーは選択せずにそのまま進められるため、意思決定の負担が減り、作業がスムーズになります。

CTAの設計と選択肢の整理

複数のCTAがあると、ユーザーはどれを選ぶべきか迷ってしまいます。1つの主要なアクションを目立たせ、他の選択肢を控えめにすることで、ユーザーが希望するアクションに向かうよう導くことができます。例えば、登録画面で「登録する」ボタンを目立たせ、その他のボタンを控えめにすることで、ユーザーの行動を誘導できます。

ヒックの法則の限界と注意点

ヒックの法則は強力な指針ですが、その適用にはいくつかの注意点があります。

質と価値の重要性

選択肢の数を減らすことが常に良い結果をもたらすとは限りません。ユーザーにとって価値のある選択肢を維持しながら適切に減らすことが重要です。例えば、情報を過度に省略しすぎると、必要な情報が見つからないといった問題が発生することがあります。UXデザインでは選択肢の質を重視し、ユーザーのニーズを満たすように設計することが求められます。

ユーザーのスキルレベルを考慮する

ヒックの法則は全てのユーザーに適用されるわけではありません。専門知識を持つユーザーは、より多くの選択肢を迅速に処理できることがあります。例えば、業界のプロフェッショナル向けのアプリケーションでは、詳細な選択肢を提供する方が利便性を高めることもあります。そのため、ユーザーのスキルレベルに合わせて選択肢の数や提示方法を調整することが必要です。

タスクの複雑性

タスクの複雑さも考慮に入れるべき要素です。複雑なタスクでは選択肢の数を減らしても、意思決定に要する時間は短縮されない場合があります。例えば、プロジェクト管理ソフトウェアでは、ユーザーが複数の詳細なオプションを必要とすることがあり、それを省略すると効率が下がることがあります。デザインプロセスでユーザーインタビューやテストを行い、適切な選択肢の数と配置を見極めることが重要です。

ヒックの法則を補完するデザイン原則

フィッツの法則との組み合わせ

フィッツの法則は、ユーザーが特定のターゲット(たとえばボタンやリンク)に到達するまでの距離やそのターゲットの大きさが操作時間に影響を与えることを示しています。ヒックの法則と組み合わせることで、選択肢を減らしつつ、最も重要なアクションを素早く選べるような設計が可能です。
たとえば、ウェブサイトにおいて、重要なボタンを目立たせるだけでなく、そのサイズや配置場所を工夫することでユーザーの操作をスムーズにすることができます。大きく配置された「購入」ボタンを画面中央またはユーザーの目に入りやすい位置に置くことで、ヒックの法則により選択肢の混乱を減らし、フィッツの法則により素早く操作させるデザインを実現します。

ゲシュタルトの法則を活用した情報整理

ゲシュタルトの法則は、視覚的に関連するものを人がひとつのまとまりとして認識する心理効果を説明します。たとえば、近接している項目は自然にグループとして認識されるため、関連する情報や選択肢をまとめて表示することで、ユーザーが直感的に情報を整理しやすくなります。ヒックの法則と組み合わせることで、複数の選択肢を視覚的に整理し、選択がスムーズになります。

結論

ヒックの法則は、UXデザインにおけるユーザーの意思決定を見据えた設計の基本とも言える指針です。選択肢を巧みに整理し、ユーザーが直感的に行動を選べる環境を整えることで、スムーズな体験を提供できます。しかし、この法則だけに頼るのではなく、他のデザイン原則と組み合わせて活用することで、より大きな効果を引き出せるでしょう。心理学的なアプローチをうまく取り入れたUXデザインは、ただ機能的であるだけでなく、使いやすさと快適さを兼ね備えたものへと進化します。ヒックの法則を始めとした理論の理解と実践が、デザインの成功を左右する大きな要素であることは間違いありません。

参考文献

著者:多賀 彩倉 / Sakura Taga
#心理学