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デジタルトランスフォーメーション

非機能要件の運用・保守性を高める設計とドキュメントのベストプラクティス

公開日

2024.11.15

非機能要件の運用・保守性を高める設計とドキュメントのベストプラクティスのサムネイル

システム開発において、非機能要件の中でも特に重要な運用・保守性は、システムの長期的な安定性と効率性を支える基盤です。特にエンジニアとプロダクトマネージャーにとって、運用性と保守性の高いシステム設計と一貫したドキュメンテーションは、システムの成長と維持に不可欠な要素です。本記事では、運用・保守性を確保するための具体的な設計原則やドキュメンテーションのベストプラクティスを詳述し、長期的なシステム運用を効率化するための手法を解説します。

運用・保守性の基本理解と重要性

運用・保守性とは、システムが導入された後に、いかにして安定した状態で稼働し続けられるかという能力を指します。運用・保守性を高めることで、システム障害やダウンタイムを最小限に抑え、ビジネスの安定した成長を支えることが可能です。エンジニアは、日々のシステムメンテナンスやバグ修正の負担を軽減でき、プロダクトマネージャーは、システムの信頼性向上により顧客満足度を向上させることができます。

運用・保守性が不十分なシステムは、開発や運用にかかるコストが増加し、企業全体の収益性に影響を及ぼす可能性があります。一方で、短期的な収益性を重視する場合や事業の特性によっては、運用・保守性の優先度を一時的に下げ、他の領域にリソースを集中させる方が効果的な場合もあります。 そのため、運用・保守性の重要性を認識しつつも、事業戦略やプロジェクトの性質に応じて、リソース配分のバランスを慎重に検討することが求められます。

効率的な保守運用を実現する設計原則

効率的な保守運用を実現するためには、設計段階でモジュール間の独立性を確保し、必要に応じて変更が容易に行える構造を整えることが重要です。たとえば、特定の機能やコードの変更が他の部分に波及しないようにする設計思想は、多くのシステムで保守性を高める基本的な要素とされています。これには、モジュール間の依存性を適切に管理し、インターフェースを明確に定義することが含まれます。

モジュール性の高いコード設計も保守性を向上させる重要な要素です。関数やクラスには「単一責任の原則」を適用し、それぞれが一つの機能にのみ責任を持つように設計することで、コードの理解や修正が容易になります。また、頻繁に使用する処理はライブラリとして抽出し、共通化します。日付処理やフォーマット変換、認証機能などのコードは、共通ライブラリにまとめることで、保守が効率化されます。更新が必要な場合も一箇所を修正すればよいため、複数箇所での手作業によるミスやバグの発生を防げます。こうしたモジュール性の高い設計は、コードのリファクタリングを容易にし、将来的な機能追加や修正が効率的に行える環境を整えます。

エラーハンドリングとロギングの実装も、保守性の向上に欠かせない要素です。システムの動作中に発生したエラーを迅速に検知し、対応するためには、一貫したエラーハンドリングの仕組みが必要です。エラー発生時には、エラーコードやメッセージ、発生箇所を即座に記録し、運用者に通知が行くようなシステムを整備します。また、エラーレベル(INFO、WARN、ERROR、FATALなど)を設け、重要度に応じたログ出力を設定することで、対応が迅速に行える体制を構築します。FATALレベルのエラーはシステム停止に直結するため、運用者が即座に対応できるようアラートを発生させることで、問題を最小限に抑えることが可能です。

リアルタイムの監視システムの導入も保守性を高めるために重要です。監視データを基にシステムの動作状況を可視化し、異常が発生した際には即座にアラートが届く仕組みを整えます。たとえば、Grafanaなどのダッシュボードツールを用いることで、システム全体の健康状態が一目で確認できるようにし、異常値を即座に把握できるようにします。また、CPU使用率が連続して80%を超えた場合にのみアラートを発生させるといったように、アラートの閾値を最適化することで、瞬間的な負荷変動による不必要な通知を防ぎ、適切な対応を可能にします。

テストと継続的デプロイメントの仕組みも保守運用を効率化する上で欠かせません。ユニットテストとインテグレーションテストにより、コード変更による影響を事前に検証し、問題があれば早期に対応します。REST APIの各エンドポイントに対するユニットテストを行うことで、機能が期待通りに動作するかを検証し、インテグレーションテストでシステム全体の連携を確認します。さらに、JenkinsやGitLab CIなどの継続的インテグレーション(CI)とデプロイメント(CD)ツールを用いることで、コードのプッシュごとに自動テストとデプロイメントを実行します。これにより、最新のコードを迅速に本番環境に適用し、システムの安定性を確保できます。

最後に、冗長性とフェイルオーバーを取り入れた設計により、システムが障害時でも即座に復旧できる体制を整えます。ロードバランサーを使用して複数のサーバーに負荷を分散させ、1台のサーバーが故障しても他のサーバーで代替処理ができるようにします。さらに、データベースのレプリケーションを利用して、データが複数のデータセンターに保存されるようにすることで、データの損失リスクを最小限に抑え、復元が容易になります。

長期運用を見据えたドキュメンテーションのベストプラクティス

ドキュメンテーションは、システムの運用と保守において重要な役割を果たします。バージョン管理と変更履歴の徹底により、システムのアップデートや機能追加の都度、ドキュメントが最新状態に保たれます。Gitなどのバージョン管理システムを活用して、誰がいつどのような変更を行ったのかを容易に追跡でき、過去のバージョンに簡単に戻れるようにします。変更履歴(Changelog)には、システムや運用に与える影響を明記し、特にセキュリティアップデートやデータ構造の変更などは詳細に記載します。

標準化とテンプレートの活用もドキュメントの一貫性を保つために重要です。設計書、APIリファレンス、ユーザーマニュアルなどの各種文書には、それぞれ統一されたテンプレートを用い、書式や内容項目を整えます。これにより、内容の網羅性が確保され、読み手が必要な情報を容易に見つけられるようになります。また、用語や表記を統一し、ドキュメント全体で一貫したトーンを維持することで、読み手の混乱を防ぎます。たとえば、UI要素やメトリクスに関する用語も統一し、全員が同じ理解のもとで作業できるようにします。

役割ごとに異なる視点からのドキュメント作成も推奨されます。エンジニア向けにはAPIリファレンスや設計書、運用担当者向けにはシステム監視マニュアルやトラブルシューティングガイドを用意し、それぞれの役割に応じた情報が提供されるようにします。関連する情報はクロスリファレンスを整備して相互にリンクさせることで、理解を促進します。たとえば、運用マニュアルに開発ドキュメントへの参照リンクを追加し、障害発生時に開発側の詳細情報に素早くアクセスできるようにすることで、トラブルシューティングの時間を短縮できます。

定期的な見直しと更新プロセスも不可欠です。少なくとも半年に一度はドキュメントを見直し、内容が最新の状態を維持できるようにします。プロジェクトに変更が生じた場合には、速やかにドキュメントも更新する体制を整え、更新の責任者を明確にすることで、更新プロセスが滞らないようにします。また、フィードバックの収集と改善を通じて、利用者の声を反映し、ドキュメントの品質向上に努めます。

ナレッジベースの構築も長期運用を支える要素です。よくある質問やトラブルシューティングに関する情報をFAQやガイドにまとめ、ナレッジベースに統合します。これにより、繰り返し発生する問い合わせや問題への対応が効率化されます。また、ドキュメントには検索機能を設け、タグやキーワードを活用して情報に迅速にアクセスできるようにし、関係者が知りたい情報に即アクセスできるようにします。

まとめ

システムの運用・保守性を高めるためには、保守を意識した設計と一貫したドキュメンテーションが欠かせません。エンジニアとプロダクトマネージャーが協力し、非機能要件としての運用・保守性を重視することで、システムの安定性と成長を支え、ビジネスの継続的な発展に貢献できます。継続的な運用改善とフィードバックの活用により、保守性の高いシステム構築を実現しましょう。

参考情報

著者:乾 友輔 / Yusuke Inui
#要件管理