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システムの安定性を支える信頼性と可用性のトレードオフの理解と実践

公開日

2024.11.14

システムの安定性を支える信頼性と可用性のトレードオフの理解と実践のサムネイル

信頼性と可用性がシステム開発において重要な理由

システム開発の成功には、機能面の品質だけでなく、信頼性と可用性といった非機能要件の確保が欠かせません。 これらは、システムが意図した通りに動作し、ユーザーが必要とする時に使用できる状態を保証するための要素であり、ビジネスの成否に直結します。 特に、企業が競争力を維持し、顧客満足度を高めるためには、信頼性と可用性の向上が不可欠です。この記事では、信頼性と可用性の定義や目標設定方法、改善のための具体的アプローチに加え、向上させる際のトレードオフについて解説します。

信頼性と可用性の定義

信頼性と可用性は、システムのパフォーマンスを示す非機能要件の一部として、特に重要視される要素です。ここでは、それぞれの定義とその役割を詳しく見ていきます。

信頼性(Reliability)とは

信頼性とは、システムがエラーや障害を発生させずに安定して動作し続ける能力を指します。信頼性の高いシステムは、ユーザーが予期する結果を安定して提供し、長時間の連続稼働を可能にします。信頼性の重要な要素には、システムが日常の業務や負荷がかかる状況でも安定して動作すること、そしてバグや障害の発生頻度を最小限に抑えることがあります。

信頼性を数値で表す指標として「平均故障間隔(MTBF: Mean Time Between Failures)」があり、MTBFが長いほど信頼性が高いと評価されます。信頼性を高めるためには、堅牢な設計や徹底したテストが求められます。

可用性(Availability)とは

可用性は、システムが利用者にとって「必要なときに使用可能な状態である割合」を示します。システムがダウンすることなく稼働し続けるためには、迅速な復旧とメンテナンスの効率化が重要です。

可用性は、システムが稼働している時間の割合として評価され、また平均修復時間(MTTR: Mean Time to Repair)によっても評価されます。MTTRが短いほど可用性が高いとされます。 可用性を確保するためには、冗長構成や障害復旧の計画が求められます。ユーザーが期待する時にいつでも利用できるシステムを維持することが、可用性の高いシステムの要件となります。

ビジネス目標に基づく信頼性と可用性の目標設定

信頼性と可用性の目標を設定するには、まずそのシステムが支えるビジネス戦略やサービス要件を十分に理解することが不可欠です。こうした理解を深めることで、システムが達成すべき品質水準が明確になり、事業目標に最適な基準を設定することができます。

たとえば、金融業界や医療業界のシステムでは、人命や財務に直接影響を与えることから極めて高い信頼性と可用性が求められます。具体的には、ダウンタイムをほぼゼロに抑え、利用者が求める即時性や正確性を確保することが必須です。一方で、社内業務用のシステムなど、ユーザー数や使用目的が限定的な場合には、一定のダウンタイムが業務に与える影響も限定的なため、やや低めの可用性でも許容されるケースもあります。ビジネス要件に応じた適切な信頼性・可用性基準を設定することが、システムが実際に必要とする水準のパフォーマンスを提供するための第一歩となります。

信頼性と可用性の目標値は、具体的な数値に変換することで管理しやすくなります。可用性は通常システムの稼働率をパーセンテージで表し、たとえば「可用性99.9%」の目標が設定されている場合には、年間での許容されるダウンタイムが約8時間と算出されます。

たとえば、金融システムでMTBFの数値をできるだけ長く保ちながらも、万が一の故障発生時にはMTTRが短くなるように目標設定することで、安定稼働を維持しつつ迅速な復旧を可能にする、といった具体的な基準が示されます。これにより、システムが長期的かつ安定的に稼働するための基準が定まり、実際の運用時にもモニタリングが行いやすくなります。

また、ビジネスニーズに沿った品質を保証するため、サービス提供者と利用者間で「サービスレベルアグリーメント(SLA)」を策定することも重要です。SLAは、可用性や復旧対応の基準などを明確に定め、具体的な品質の維持を契約上で保証するものであり、ビジネスにおける信頼性・可用性の一環として欠かせません。

「可用性99.9%」という基準がSLAで設定されていれば、サービス提供者はこれを達成するための対策を講じる責任を負い、また利用者もその稼働率を期待することができます。このようにSLAの策定によって、万が一システム障害が発生した場合であっても、その影響が最小限に抑えられ、安定したサービス提供が維持されるという確約が得られるため、利用者にとっての安心材料にもなります。

信頼性と可用性は互いに密接に関連しながらも、それぞれ異なる特性を持ちます。信頼性とは、システムがエラーなく長時間安定して動作し続ける能力を指す一方、可用性はシステムが利用者の求めるときに稼働していることを保証する要素です。信頼性が高ければ、障害発生のリスクは低く、システムはより安定して動作するため、その結果として可用性も高まります。しかし可用性は、障害発生後の迅速な復旧やダウンタイムの短縮によっても維持されるため、信頼性が必ずしも高くなくても、可用性を高く保つことができるケースもあります。

たとえば、信頼性が非常に高く障害の発生頻度が低いシステムであっても、頻繁にメンテナンスが必要な設計の場合には、稼働率が下がり、可用性が低くなる可能性があります。逆に、可用性を重視して復旧速度を優先したシステムでは、多少の障害が発生しても迅速に復旧できるため、信頼性が若干低くても可用性を高い状態に維持できることがあります。このように、信頼性と可用性は互いに補完的な関係にあるため、ビジネス目標に沿ったバランスの取れた目標設定を行うことで、システム全体の品質を向上させることが可能となります。

信頼性を高める具体的な方法

システムの信頼性を向上させるためには、設計段階から品質管理を徹底し、さまざまなテストを実施することが効果的です。システムの動作や負荷に関するテストを行い、想定されるリスクに対する耐性を確認することで、エラーや障害の発生を未然に防ぐことが可能です。

また、信頼性の向上には信頼性が高く、耐久性に優れたハードウェアやソフトウェアの採用も求められます。さらに、トランザクション管理やデータ整合性を確保することで、システムが安定して正しいデータを扱えるようになります。

データベースの一貫性を保つための仕組みやエラー発生時のロールバック機能の実装も、システムの信頼性を向上させるための重要な手法です。加えて、リスクを最小化するためのリスクベース設計を行い、定期的なリスク評価を行うことで、新たな脅威や潜在的なリスクに対応する柔軟性が得られます。

信頼性を高めることによるトレードオフ

システムの信頼性を高めることは、システムの安定性や稼働率の向上に大きく貢献しますが、それにはいくつかのトレードオフが伴います。ここでは、信頼性向上に伴う具体的な課題や代償について詳細に説明します。

コストと開発期間の増加

信頼性の向上には、通常より高品質なハードウェアや冗長構成、複雑なバックアップシステムが求められます。

例えば、複数のサーバーやデータセンターを使って冗長化を図ることで、障害発生時にもサービスを継続できるようにしますが、これによりハードウェア費用やクラウドリソースの利用料が大幅に増加します。また、信頼性を高めるための冗長構成は、データセンターの地理的分散によって通信やネットワークインフラのコストも押し上げる要因となります。

さらに、信頼性を高めるためには徹底したテストと検証が必要です。 特に金融や医療のような分野では、リアルタイムでの高い信頼性が求められるため、開発期間中にシステムのあらゆる部分を詳細にテストし、エラーやバグのリスクを最小化するプロセスが必須です。このような厳密なテストプロセスには多くの人員やリソースを必要とし、結果として開発コストとスケジュールの遅延が生じる可能性が高まります。

システムの柔軟性と運用効率の低下

信頼性の高いシステムを構築するためには、安定性を最優先するアプローチが求められるため、しばしばシステムの柔軟性が犠牲になる場合があります。

例えば、頻繁なアップデートや新機能の導入が困難になることがあり、変更のたびにシステム全体に及ぼす影響を評価する必要が出てきます。信頼性を確保したいシステムでは、変更の導入前に入念なテストとリリース計画を立てなければならないため、結果として、システムの運用効率が低下し、変更や新機能の導入が遅れることが発生します。

また、安定性を重視する設計により、従来のシステムと統合したり他のプラットフォームへ移行する際に問題が発生しやすくなることもあります。信頼性を保ちながら新たなテクノロジーやサービスとの統合を図ることは、既存のシステム設計と新しい技術要件の間での調整を複雑にし、追加の運用コストや時間がかかる要因にもなります。

データ整合性とリアルタイム処理の課題

高信頼性のシステムでは、データの完全な整合性とリアルタイム性の確保が求められることが多く、この点でトレードオフが発生します。分散環境でのデータ処理では、すべてのコンポーネント間で常に一貫性を維持する必要があり、これにより通信コストや同期処理の負荷が増加します。

例えば、分散型のデータベース環境では、ノード間のデータが常に一致している必要があるため、データの同期やレプリケーションのための通信遅延が問題となることがあります。

また、即時の整合性が求められるシステムでは、結果整合性(eventual consistency)を用いることが難しくなり、複数のトランザクションが同時に発生する環境でデータの矛盾や不整合が発生するリスクが高まります。 そのため、全てのデータ処理を一貫して同期させるための追加の設計や技術が求められ、これがシステムのパフォーマンスに負担をかける要因となります。

トラブルシューティングとメンテナンス負担の増加

信頼性の高いシステムでは、問題の発見と解決が複雑化することが多く、トラブルシューティングが困難になるケースがあります。

冗長構成や複数のバックアップシステム、異なる場所で稼働する分散システムを取り入れると、それぞれのシステムがどのように影響し合うかの理解が必要となり、障害発生時には原因の特定が困難になることがあります。また、システムが大規模かつ複雑であるほど、メンテナンスのための高度なスキルを持つ専門人材が求められ、これが運用コストを増加させる要因となります。

また、障害発生時には緊急時の対応手順が細分化され、対応の時間とコストも増加する傾向があります。信頼性を維持するためには、各種手順やプロセスが標準化されていることが重要ですが、この標準化プロセスはメンテナンスやトラブルシューティングの効率を低下させ、結果として運用コストを増加させることがあるのです。

可用性を高める具体的な方法

システムの可用性を向上させるためには、いくつかの具体的で実践的な対策が必要です。

まず基本的な方法として冗長化があります。システムの冗長化とは、バックアップのサーバーやネットワーク機器を追加しておき、障害が発生した場合でも別の機器が代替稼働するようにする構成です。これにより、単一の障害でシステムが完全に停止することを防ぎ、可用性を大幅に向上させることができます。特に、重要な業務に関わるシステムでは、サーバーやネットワークの冗長化が安定したサービス提供に不可欠です。

次に、高可用性クラウドインフラの活用も有効な手段です。クラウドサービスプロバイダーは、高い可用性を確保するために、地理的に分散された複数のデータセンターを活用しています。これにより、ある地域のデータセンターで障害が発生しても、別の地域でサービスを継続することが可能です。たとえば、クラウドプロバイダーの「リージョン」や「ゾーン」をまたいだ冗長構成を組むことで、災害や停電などの地域的な問題が発生した場合でも、影響を受けない他のリージョンやゾーンで迅速に復旧し、システムの稼働を継続できます。

また、可用性の向上には障害復旧計画(Incident Response Plan)とディザスタリカバリ(Disaster Recovery)の策定が欠かせません。障害が発生した際の迅速な対応を可能にするために、事前に計画を立てておきます。たとえば、サーバーがダウンした場合にどのように復旧作業を行うか、担当者がどのような手順で障害対応に当たるべきかを詳細に設定し、予期せぬ事態に備えます。ディザスタリカバリの手法としては、定期的なバックアップやデータのリアルタイム複製などがあり、これによりシステムのダウンタイムを最小限に抑えることが可能です。

さらに、予防保守と定期的なメンテナンスも、可用性を高める上で重要です。予防保守は、計画的なメンテナンスを通じて、突発的な障害の発生を未然に防ぐことを目指します。例えば、ハードウェアやソフトウェアのアップデートを定期的に実施し、最新の状態を保つことで、故障やセキュリティリスクの軽減が図れます。また、メンテナンスを計画的に行うことで、システムのダウンタイムが最小限に抑えられ、ユーザーに対する影響も軽減されます。

リアルタイム監視とアラートシステムの導入も、可用性向上のための効果的な方法です。システムを常時監視することで、異常の早期発見が可能になり、即座に対応する体制が整います。例えば、CPU使用率の急激な上昇やメモリ使用量の異常な増加を監視し、事前に対策を取ることでシステム障害の予防が可能です。また、異常が発生した際には即座にアラートが発信され、担当者が迅速に対応できるような仕組みを構築することが求められます。

可用性を高めることによるトレードオフ

システムの可用性を高めることには多くのメリットがありますが、それに伴うトレードオフもいくつか発生します。以下に具体的な課題とその代償について説明します。

インフラストラクチャおよび運用コストの増加

可用性を高めるためには、システムに冗長性を持たせる必要があります。具体的には、追加のハードウェアやクラウドリソースが求められ、これによりインフラストラクチャのコストが大幅に上昇します。たとえば、バックアップ用のサーバーや地理的に分散されたデータセンターの利用には相当な初期投資が必要です。また、これらの冗長化構成や高度なクラウドインフラの監視および管理には、専門の人員と高度なツールが欠かせないため、運用コストも増加します。限られた予算の中で可用性向上のためのコストバランスを取ることが難しくなることも多いです。

アーキテクチャおよび運用の複雑化

可用性向上には、システムアーキテクチャが複雑化するという課題も生じます。高可用性を実現するためには、負荷分散やフェイルオーバー、データレプリケーションなどの多層的な機能を組み込む必要があり、結果としてシステムの設計が高度で複雑になります。このような複雑な構成は、開発段階での初期コストや期間を増加させるだけでなく、運用段階での管理やトラブルシューティングも難しくします。例えば、冗長化システムが複数のコンポーネントで構成されている場合、障害発生時には各コンポーネントの同期や整合性を保つ必要があり、運用の複雑さが増し、対応に多大な時間と労力が必要となる可能性があります。

パフォーマンスへの影響

高可用性を確保するための冗長構成やデータのリアルタイムな複製は、システム全体のパフォーマンスに影響を与える可能性があります。地理的に分散された複数のデータセンター間でデータを同期する場合、遠隔地間の通信遅延により、システムの応答時間が長くなることがあります。また、データ複製や負荷分散時のオーバーヘッドによって、システムのスループットが低下し、大量のリクエストが発生するピーク時にはユーザーの利便性や満足度に悪影響を与えることもあります。可用性向上に伴うパフォーマンスへの影響を考慮し、両者のバランスを慎重に検討する必要があります。

セキュリティリスクの増加

可用性を高めるための冗長構成やデータレプリケーションによって、システム全体の攻撃対象領域が広がり、セキュリティリスクが高まります。例えば、データを複数の場所に分散して保管する場合、各拠点ごとにアクセス制御やセキュリティ対策が必要になります。すべての拠点でこれらの対策が適切に行われていないと、情報漏洩や不正アクセスのリスクが高まる可能性があります。可用性を優先した設計は、セキュリティ上の脆弱性を増やす原因となり得るため、セキュリティと可用性の両立を目指した慎重な設計が求められます。

データ整合性の課題

分散型の高可用性システムでは、可用性を優先することでデータ整合性に課題が生じることがあります。複数のノードやデータセンター間でのリアルタイムなデータ同期は、通信遅延やネットワーク障害により、即時の一貫性を維持するのが難しくなるため、一部のデータが一時的に不整合な状態になることを許容する結果整合性(eventual consistency)の考え方が求められることもあります。金融や医療分野など、データの完全性が重視される業界では、可用性を優先した結果整合性の採用が難しいケースも多く、より高い整合性を維持するための設計やコストが発生します。このように、可用性の向上にはパフォーマンス、コスト、整合性のバランスを考慮したシステム設計が必要です。

信頼性と可用性がプロジェクト成功に与える影響

信頼性と可用性は、システムの安定性を支え、顧客満足度の向上やビジネス目標の達成に直接的な影響を与えます。信頼性の高いシステムは予期せぬエラーや障害が少なく、可用性が高いシステムはユーザーがいつでもアクセス可能であるため、サービスの継続性が保たれます。このように、信頼性と可用性が高いシステムは、ビジネスの成長やプロジェクトの成功に不可欠です。

まとめ

システム開発において、信頼性と可用性の確保はビジネスの競争力強化とユーザーの満足度向上に欠かせません。ビジネス目標に基づいた信頼性と可用性の目標を設定し、計画的な改善を行うことで、安定したサービスの提供が可能となります。ビジネス成長に向けた持続的なシステムの品質向上に、信頼性と可用性のバランスが大きく寄与するのです。


参考文献

著者:乾 友輔 / Yusuke Inui
#要件管理