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デジタルトランスフォーメーション

運用要件定義書の作成プロセスと管理

公開日

2024.11.08

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運用要件定義書は、システムが安定して稼働するために必要な条件や制約を明確にするための重要なドキュメントです。この文書には、システムの稼働状況、パフォーマンス、セキュリティ、障害対応、バックアップ計画などが含まれており、ビジネスと開発の間で共通の基盤を提供します。運用要件定義書を通じて、プロジェクト全体の品質が保たれ、長期的なビジネス価値を創出する基盤が築かれます。

以下に、運用要件定義書の代表的な項目を表形式で示します。各項目には、項目名、項目の意味を説明する内容、そしてサンプル値が含まれています。実際のプロジェクトにおいては、プロジェクトの性質や運用環境に応じて項目を見直し、適切な要件を定義することが重要です。

項目名項目の意味サンプル値
ドキュメントの目的システム運用に必要な要件を明確化し、関係者に共有するシステムの安定した運用と効率的な稼働の保証
対象システム要件が適用されるシステムの名称および概要顧客管理システム(CMS)
システム概要システムの主要な機能と使用目的営業・サポートスタッフ向けの顧客情報管理ツール
稼働環境システムが稼働するためのインフラ構成AWS
稼働時間システムが稼働する時間帯と曜日月〜金、9:00〜18:00
稼働率システムの年間稼働率の目標年間99.9%以上
レスポンスタイムシステム操作の応答速度の目標3秒以内
同時接続数システムが許容できる最大同時接続数最大100ユーザー
トラフィック管理負荷増減に対応するための負荷分散設定やキャパシティ計画サーバー負荷分散を設定、定期キャパシティ計画
スケーラビリティ利用者数やデータ量増加に対応するための拡張計画サーバーリソース追加手順
アクセス制御利用者に対するアクセス権限の設定と管理ロールベースのアクセス管理
データ保護データの暗号化や個人情報保護に関する要件顧客データの暗号化、DB暗号化
脆弱性管理セキュリティ脆弱性に対する対応や管理定期的なセキュリティ診断、脆弱性パッチの適用
監査ログ監査のための記録を残すログの設定操作履歴のログ保持、1年間保持
バックアップ頻度データのバックアップを行う頻度毎日深夜に自動バックアップ
バックアップ保存期間バックアップデータの保持期間30日間
リカバリ手順データ消失時にバックアップから復旧するための手順手順書に基づく手動復旧
障害検知方法障害発生時の検知方法および通知手段監視ツールによる自動アラート
障害時対応時間障害発生から対応開始までの目標時間初期対応30分以内
障害復旧目標時間障害発生からシステム復旧までの目標時間3時間以内に復旧
モニタリング項目運用監視の対象項目とその設定CPU使用率、メモリ使用率、ディスク容量
モニタリング頻度システムの状態を監視する頻度リアルタイム監視
メンテナンス計画定期メンテナンスのスケジュールとその影響範囲月次メンテナンス: 第1月曜日深夜
運用手順書通常運用と障害対応時の具体的な手順書操作マニュアル、障害時手順書
更新・変更管理プロセス更新・変更が発生した際の管理プロセス影響分析、関係者承認を経て変更実施
リリース管理新しいリリースやアップデートの管理手順テスト後、本番環境リリース手順に基づく実施
リソース管理運用に必要なサーバーやネットワーク資源の管理サーバーキャパシティの定期評価
リスク管理運用上のリスクを予測し、対応策を講じるための管理リスクマトリックスに基づく管理
予算管理運用にかかる費用の見積もりと実績の管理年間予算: 〇〇万円、定期見直し
障害報告手順障害が発生した場合に報告するフローと責任者報告フロー: 運用担当→マネージャー→関係者へ通知

この一覧は、運用要件定義書に含まれる代表的な項目を示していますが、プロジェクトの特性や運用の要件に応じて調整が必要です。プロジェクトごとに重要度が異なるため、不要な項目は省略し、必要な要件に応じたカスタマイズを行ってください。

運用要件定義書の作成プロセス

運用要件定義書を効果的に作成するには、次のような段階的なプロセスが推奨されます。

まず、情報収集が出発点となります。これは、システム利用者や運用担当者、関係するビジネスステークホルダーから必要な情報を集めるフェーズです。インタビューやアンケート調査を実施し、システムの使用目的、期待されるパフォーマンス要件、セキュリティ要件、障害発生時の対応手順などの情報を収集します。これにより、システムが実際の運用環境で確実に稼働するための要件が具体化され、今後の作業の基盤が整います。

次に、収集した情報をもとに要件の整理と優先順位付けを行います。全ての要件が等しく重要ではないため、リソースを効率的に配分するために、ビジネスへの影響度やリスクに応じて優先度を設定します。このように要件を整理しておくことで、プロジェクトが進行中に発生する可能性のある要件追加や変更に対しても柔軟に対応できる準備が整います。

続いて、プロジェクト全体に統合するためのプロジェクト管理フレームワークの導入が推奨されます。例えば、PMBOK(Project Management Body of Knowledge)などのフレームワークを活用することで、運用要件定義書がプロジェクト全体の管理プロセスと整合し、進行中のリスク管理やスケジュール調整において柔軟に対応できる体制が構築されます。これにより、運用要件が実行可能なタスクとして具現化され、プロジェクトの進行を支える実践的なツールとして機能します。

最後に、ドキュメントのレビューと承認を行い、運用要件定義書を正式な文書として確定させます。このレビュー段階では、開発チーム、運用チーム、ビジネスリーダーなどが要件の妥当性を確認し、ビジネス目標と一致しているかを評価します。承認プロセスを経ることで、プロジェクトの後半での手戻りが最小限に抑えられ、必要な修正も迅速に反映できるようになります。

運用要件の管理方法

運用要件定義書は、作成した後もプロジェクト全体を通じて継続的に管理していく必要があります。特に、システムが実際の運用フェーズに移行した後でも、定義された要件が正確に反映されていることを確保するための管理が重要です。

まず、継続的なモニタリングが不可欠です。運用要件がプロジェクトの各フェーズでどのように実現されているかを追跡し、要件の達成度を評価することで、運用段階でのトラブルやコストの増加を未然に防ぎます。トレーサビリティマトリックスなどのツールを用いることで、各要件の進捗や影響をリアルタイムで把握し、必要に応じて改善措置を講じます。

次に、プロジェクト進行中に発生する要件の変更管理が重要な要素です。システム開発プロジェクトでは、状況の変化や新たな要望に応じて、要件が更新されることが多いため、変更が発生した場合には迅速かつ柔軟に対応するプロセスを確立しておく必要があります。具体的には、変更が発生した際の影響範囲を分析し、関係者間で情報を共有した上で、再優先順位付けやリソースの調整を行います。

さらに、プロジェクト全体を俯瞰するためのプロジェクト統合管理も重要です。統合管理を行うことで、運用要件が一貫してプロジェクト全体の目標と一致し、システム運用に対するリスク評価やリソース配分がスムーズに行われます。プロジェクト統合管理を通じて、各要件がシステム全体の一貫した管理目標の一部として認識され、関係者間の情報共有が円滑になります。

まとめ

運用要件定義書は、システム開発プロジェクトの成功を支えるために不可欠な基盤です。正確な要件定義とプロジェクト進行中の継続的な管理を通じて、システムの安定性と効率が保証され、長期的なビジネス価値が実現されます。この文書をプロジェクトチーム全体で共有し、必要に応じて更新することで、システムが安定して稼働し、ビジネス目標を達成するための基盤が築かれます。

参考文献

著者:松本 均 / Hitoshi Matsumoto
#要件管理